歯列矯正の治療中、「歯科矯正用アンカースクリューを使いましょう」と担当の歯科医師から言われることがあります。歯科矯正用アンカースクリューは、歯を移動させるスピードを速めたり、効率よく移動させたりするために使用する小さなネジです。
上顎に歯科矯正用アンカースクリューを使用する場合は、主に口蓋部(上顎の天井の部分)へ装着します。なぜなら、上顎の奥歯を支えている歯槽骨はやわらかいため、歯科矯正用アンカースクリューが離脱しやすく歯の根っこ部分に損傷を与えてしまう恐れがあるからです。
ネジを口の中に装着すると聞くと、痛みに不安を感じる方がほとんどですが、実際に歯科矯正用アンカースクリューを埋め込んでみると、ほとんどの患者さんが「思っていたよりも痛みを感じなかった」と仰います。
しかし中には、上顎に装着した歯科矯正用アンカースクリューが舌に当たって痛んだり、ご飯を食べることすら難しい状況が続いたりするケースもあるようなので、不安に感じている方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、歯科矯正用アンカースクリューの詳細と上顎に使用する症例、歯科矯正用アンカースクリューで舌が痛いときの対処法についてご紹介します。
歯科矯正用アンカースクリューとは
歯科矯正用アンカースクリューとは、英語でTAD(Temporary Anchorage Device)と呼ばれる、直径1.3〜2.0mm程度のチタン製のネジです。歯列矯正の治療期間だけ口の中に装着し、歯を動かす際の固定源になります。
通常の歯列矯正では、奥歯を固定源としていますが、前歯に引っ張られてしまうことも少なからずあり、歯が無駄に移動してしまうことも。一方、歯列外の骨に直接埋め込む歯科矯正用アンカースクリューは動くことがないため、安定した歯の移動が期待できるのです。
チタンは生体適合性に優れた金属であるため、骨折の接合や人工関節、インプラントに使用される人工歯根などにも用いられる金属アレルギーの心配が少ない安全性の高い素材です。
処置にかかる時間も、1本あたりおよそ5〜20分程度で済みます。心配される痛みについても、表面麻酔の後に局所麻酔を施して行いますので、施術中に痛みを感じることはないでしょう。
本格的に歯科矯正用アンカースクリューの使用がはじまったのは1990年代後半であるため、歴史はまだ浅いです。
しかし日々の技術の進歩と新製品の開発により、外科手術と比べて非常に低侵襲で患者さんが感じるストレスも少なくなっています。また、必要な箇所に適切な歯科矯正用アンカースクリューを埋め込めるようになってきており、さまざまな症例に対応できるようになりました。
驚くことに、治療後は麻酔を施さずに外せる上に、傷もすぐに目立たなくなるので、安心して施術を受けましょう。
歯科矯正用アンカースクリューを上顎に使用する症例
歯並びや咬み合わせを整える歯列矯正。
近年、口の中の健康に対する意識の高まりに伴って、子どもだけでなく大人でも歯列矯正をはじめる方が増えており、それと同時に顎に歯科矯正用アンカースクリューを使用する方も増えています。
とくに、重度の上顎前突など難易度が高いとされている治療や、ガミースマイルの根本的な治療にも向いているため、上顎に使用するケースも多いです。
では、具体的に歯科矯正用アンカースクリューを上顎に使用する症例とは、どのようなケースなのでしょうか。
前歯だけを選択的に後ろに下げたい場合
以下のような前歯の症状は、犬歯の位置が本来よりも前方にずれていることで生じているケースが多くあります。
- 前歯が前方へ突出している場合
- 口元全体が前方に出ている場合
- 歯が並ぶスペースが狭いために前歯の重なりが大きい場合
- 前歯が咬み合っていない場合
- 前歯の真ん中の線が上下で大きくズレている場合
このような場合は、一般的に犬歯を歯根ごと後ろへ移動させる必要があります。
通常の歯列矯正で傾斜移動を行った場合、歯の根っこまで十分に移動させることが難しいため、前歯の4本をしっかりと後方に移動できなかったり、歯をきれいに並べられなかったりする可能性があります。
また、前歯の症状を改善したい場合、前歯を後ろに下げるために抜歯をして得たスペースに対して、奥歯と前歯を引っ張り合わせる方法をとることもありました。その場合、前歯が後ろに下がるにつれて、奥歯まで手前にズレてしまうという反作用が生じてしまうことも。
しかし、歯科矯正用アンカースクリューを使用することで奥歯への反作用が生じることもないので、前歯だけを選択的に抜歯したスペースへきちんと下げられるようになりました。
さらにこれまでは小臼歯を抜歯して治療していたようなケースでも、アンカースクリューを使用することで歯列全体を後方に移動させ、歯が並ぶスペースを確保できる可能性もあるため、抜歯をせずに歯並びを整えられるケースもあります。
ガミースマイル
ガミースマイルとは、笑った際に上の歯茎が大きく見えすぎてしまう状態のことです。意外にも芸能人やモデルなどにも多いため、必ずしも治さなければいけないというものではありません。
しかし、ガミースマイルは骨格や歯並びの悪さが原因になっているケースも多く、咬み合わせにまで問題を抱えている可能性も少なくありません。
ガミースマイルの根本的な治療では、上顎の骨切り手術が必要なケースもあります。しかし、外科的な手術をしたくない場合は、歯科矯正用アンカースクリューを固定源とした歯列矯正を行うことで、手術を回避できる可能性があります。
また、ガミースマイルの方は歯が前に突出しているケースも多いのが特徴です。前歯を引っ込める必要がある場合は、歯科矯正用アンカースクリューを固定源として利用し、歯を垂直方向に移動させながら前歯が引っ込むように歯列を整えていきます。
顎外装置をつけたくない場合
従来の歯列矯正では、主に上顎前突で上顎の骨の成長を抑制するために、ヘッドギアなどの顎外装置を装着するのが一般的でした。
しかしこれらの装置を使用する場合、患者さんは決められた時間や用法を毎日守る必要があり、装置に伴う違和感や見た目の問題から、使用を途中でやめてしまうことも。
患者さんの協力度が低いと、当然治療結果は思うように出ません。しかし、アンカースクリューを装着した場合は、患者さんの協力度に依存することなくスムーズに治療を進めていくことが可能です。
歯科矯正用アンカースクリューで舌が痛いときの対処法
歯科矯正用アンカースクリューは、ネジを歯茎に埋め込むというイメージとは反対に、痛みが少ないといわれています。しかし中には、歯科矯正用アンカースクリュー自体や歯科矯正用アンカースクリューと奥歯をつなぐゴムが舌に当たり、唾を飲み込むごとに痛みを感じてしまう方もいるようです。
そのような場合、どのように対処すればよいのでしょうか。ここでは、歯科矯正用アンカースクリューで舌が痛いときの対処法についてご紹介します。
オーソシルを使用する
歯科矯正用アンカースクリューを使用してすぐは慣れないため、ひと月程度舌の粘膜と擦れて痛んだり、口内炎ができたりしてしまうことがあります。そのような場合は、オーソシルという粘膜保護用のワックスを使用して痛みをコントロールするのが一般的です。
オーソシルは、指で適当な大きさに丸めて歯科矯正用アンカースクリューに貼り付けて使用します。以下は、オーソシルを使用する際のポイントをまとめたものです。
- オーソシルを使用する際は、貼り付ける箇所が濡れたり汚れたりしていないことを確認してから使用する
- オーソシルは熱で温めるとやわらかくなるため、指で温めて適度なやわらかさになるように調節する
- 食事の際は剥がれて飲み込んでしまう恐れもあるので、剥がすようにする
オーソシルは、貼り付ける部分を清潔にして乾燥させてから使用することが重要です。
やや剥がれやすいのが特徴ですが、食事の際に万が一飲み込んでしまっても、無害でそのまま排泄されるため心配することはありませんが、外してから食事をするようにしましょう。
また、剥がれてしまった場合は、新しいものを正しい手順で使用してください。舌の痛みがなくなってからも、緊急時に役立ちますので、オーソシルを保管しておくのがおすすめです。
ギシグーを使用する
ギシグーとは、オーソシルと同様にアンカースクリューが当たって舌や粘膜が痛む場合に使用する、シリンジタイプの保護剤です。バブルガムのフレーバーがついており、患者さんが使いやすいように工夫されています。
ただし、ギシグーは歯科医院で歯型をとる際に使用されている、「ポリビニルシロキサンエラストマー」という素材で作られているため、シリコンアレルギーの方は使用できません。
以下は、ギシグーを使用する際のポイントをまとめたものです。
- 練り合わせが不十分だときちんと固まらないので、色が混ざるまでしっかりと練り合わせる
- 固まる前にアンカースクリューに付けて形を整える
- 固まるまでにかかる時間は2分間程度
- 大量に飲み込んでしまうと窒息の恐れがあるため注意する
ギシグーの最大の特徴はその剥がれにくさです。しかしオーソシルと同様に、食事や就寝時は取り外す必要があります。
誤って少量飲み込んだ程度では毒性の心配はありませんが、大量に飲み込むと危険ですので注意して使用しましょう。
まとめ
歯科矯正用アンカースクリューの詳細と上顎に使用する症例、歯科矯正用アンカースクリューで舌が痛いときの対処法についてご紹介しました。
歯科矯正用アンカースクリューは、歯列矯正の治療スピードをアップさせたり、以前は難しかった症例でも治せたりと、非常に優秀な装置です。とくに上顎前突やガミースマイルなど、日本人にも多い症例に対して使用されることも多いため、上顎に装着するケースもあるでしょう。
歯茎にネジを埋め込むと聞くとほとんどの方が不安に感じてしまいますが、気になることがあれば担当の歯科医師になんでも相談してみることをおすすめします。
今回ご紹介したオーソシルやギシグーは、歯科医院以外でも販売されているため、手に入れやすいのが特徴です。歯科矯正用アンカースクリューが舌に当たって痛むときは、ぜひ参考になさってください。
当院では、患者様の歯並びや咬み合わせを美しく整えるために、幅広い治療法をご用意してお待ちしております。
日本矯正歯科学会の認定医も多数在籍しておりますので、歯科矯正用アンカースクリューについて気になることがあればなんでもご相談いただけます。
装置の痛みについても、できるだけ和らぐように対処いたしますので、歯列矯正を検討されている方は、ぜひお気軽に千代田区の矯正歯科専門・「末広町矯正歯科」までご相談ください。